「ふん、それがわかってるんなら、それで醜怪化(しゃかいか)がわかんないんなら、おまえってホンっトの大バカもんだぞ」
それ以上はきかないほうがいいぞと思ったので、アリスはにせウミガメに言いました。「ほかにはどんなお勉強をしたの?」
「えーと、溺死(れきし)でしょ」とにせウミガメは、ひれで科目をかんじょうしていきます。「― ―溺死、古代死と現代死ね。それと、致死学、それから頭蓋絞殺(ずがこうさく)― ―絞殺の先生は、年寄りのヤツメウナギで、週に一度だけくんの。この先生は、アリバイ工作に上告(ちょうこく)がとくいだったのよぅ。出血がホントにきびしくてねぇ」
「ちゃんと出たんですか?」とアリス。
「ぼくはあんまり。ウロコが硬くて血が出にくいもん。それにグリフォンはとってないし」
「時間がなくてよ。でもおれ、惨数の上級はとったぜ。先公がすんごいタコおやじ。いやまったく」とグリフォンが言います。
「ぼくはその先生には教わってないけど」とにせウミガメがため息をつきました。「でも話によると、教えてたのが悲っ惨(ひきざん)だってねぇ」
「ああそのとおり、そのとおり」とグリフォンもためいきをついて、生き物は両方とも顔を前足でおおってしまいました。
「じゃあどういう時間割(じかんわり)になってたの?」アリスはあわてて話題を変えようとしました。
「最初の日は十コマあるのよ」とにせウミガメ。「つぎの日が五コマ、そのつぎは三コマってぐあい」
アリスはびっくりしてしまいました。「ずいぶんへんな時間割(じかんわり)ねえ!」
「え、そのまんまじゃん。時間を割ってるんだよ。日ごとに割ってくわけ」とグリフォン。
これはアリスにしてみれば、なかなか目新しいアイデアでしたので、口をひらくまえに、よっく考えてみました。「じゃあ、十日目には一コマだけだったはずね?」
「もちろんそのとおりよ」とにせウミガメ。
「じゃあ、十一日目からあとはどうしたの?」アリスはねっしんにつづけます。
でもグリフォンがきっぱりといいました。「時間割(じかんわり)はもうたくさん。こんどはこの子に、おゆうぎの話をしてやんなよ」
10. ロブスターのカドリーユおどり
にせウミガメはふかいためいきをついて、ひれの一つで目をおおいました。そしてアリスを見て話そうとするのですが、そのたびにすすり泣きがでて、一分かそこらは声がでません。「のどに骨がつかえたときといっしょだよ」とグリフォンは、にせウミガメをゆすったり、背中をたたいたりしはじめました。やっとにせウミガメは声が出るようになって、ほっぺに涙をながしながら、またつづけました。
「あなた、海のそこにはあんまり住んだことがないかもしれないし― ―」(「ないわ」とアリス)― ―「あとロブスターに紹介されたこともないようねぇ― ―」(アリスは「まえに食べたことは― ―」と言いかけて、すぐに気がついて、「いいえ一度も」ともうしました)「― ―だから、ロブスターのカドリーユおどりがどんなにすてきか、もう見当もつくわけないわね!」
「ええ、ぜんぜん。どういうおどりなんですか?」とアリス。
グリフォンがいいました。「まず海岸にそって、一列になるだろ― ―」
「二列よ!」とにせウミガメ。「アザラシ、ウミガメ、シャケなんか。それでクラゲをぜんぶどかしてから― ―」
「これがえらく時間をくうんだ」とグリフォンが口をはさみます。
「― ―二回すすんで― ―」
「それぞれロブスターがパートナーね!」とグリフォンもわめきます。
「もちろん。二回すすんで、パートナーについて― ―」
「― ―ロブスターを替えて、同じように下がる」とグリフォンがつづけます。
そしてにせウミガメ。「そしたら、ほら、ロブスターを― ―」
「ほうりなげる!」とグリフォンがどなって、宙にとびあがりました。。
「― ―沖へおもいっきり― ―」
「あとを追っかけて泳いで!」とグリフォンぜっきょう。
「海の中でとんぼがえり!」とにせウミガメ、こうふんしてぴょんぴょんはねてます。
「またロブスターを替える!」グリフォン、ほとんどかなきり声。
「陸にもどって最初の位置にもどるのねぇ」とにせウミガメが、いきなり声をおとしました。そして生き物二匹は、さっきまで狂ったみたいにはねまわってたのに、またとってもかなしそうにしずかにすわって、アリスを見ました。
「とってもきれいなおどりみたいね」アリスはおずおずと言いました。
「ちょっと見てみたい?」とにせウミガメ。
「ええ、ぜひ」
「よーし、じゃあ最初のところ、やってみましょうか」にせウミガメがグリフォンにいいました。「ロブスターなしでもなんとかなるわね。どっちがうたう?」
「ああ、おまえがうたってくれよ。おれ、歌詞(かし)わすれちゃった」
そこで二匹は、まじめくさってアリスのまわりをおどりだし、ときどき近くにきすぎてアリスのつま先をふんずけて、ひょうしをとるのに前足をふって、そしてにせウミガメはこんな歌を、とってもゆっくりかなしそうにうたったのでした:
* * * * *
「『もっとさっさと歩いてよ』とスケソウダラがウミウシに。
『ヤリイカうしろにせまってて、ぼくのしっぽをふんでるの。
ロブスターとウミガメが、あんなにいそいそ進んでる!
みんな砂利浜で待ってるし― ―あなたもおどりに入ろうよ!
入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり
入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり
みんながぼくらをつかまえて、ロブスターと海へ投げ出す!
どんなにたのしいことなのか、あなたはたぶんわからない!』