* * * * *
「ロブスターの宣言を、わたしが聞いたところでは
『わしはこんがり焼かれすぎ、髪に砂糖をまぶさなきゃ』
アヒルがまぶたでするように、ロブスターは鼻ヅラで
ベルトとボタンを整えて、つま先そとに向けまする」
「砂がすっかりかわいたら、ヒバリまがいに大ごきげん
サメを小ばかにしてまわる
でも潮がみちてサメがくりゃ
声はおびえてふるえます。」
* * * * *
「おれが子どものころに暗唱したのとは、ちがってるなあ」とグリフォン。
「うん、ぼくははじめてきくけど、でもわけわからないデタラメにしかきこえないわよ」とにせウミガメ。
アリスはなにも言いませんでした。すわって、顔を両手でおおって、もうこの先二度と、なにもふつうにはおきないのかしら、と考えていました。
「説明してもらえないかしらぁ」とにせウミガメ。
「説明できないよ、この子」とグリフォンがいそいで言います。「つぎんとこ、やってごらん」
「でもつま先はどうなるのぉ? だってロブスターが、どうやったらそれを鼻でそとに向けるのぉ、ねえ?」
「おどりの最初のポジションよ」とアリスは言いました。が、なにもかもとんでもなく頭がこんがらがっていて、話題を変えたくてしかたありませんでした。
「つぎんとこ、やってごらん」グリフォンが、まちきれないようすで言いました。「出だしは『とおりすがりにそいつの庭で』だよ」
アリスはとてもさからったりできませんでしたが、でもぜったいにぜんぶめちゃくちゃになるな、と思ったので、ふるえる声でつづけました:
* * * * *
「とおりすがりにそいつの庭で、わたしが片目で見たことにゃ
ヒョウとオウムがパイをわけ― ―
ヒョウがたべたはパイ皮、肉汁と肉
オウムの分け前、お皿だけ。
パイがおわるとおなさけに
オウムはおさじをもちかえり
ヒョウはうなってナイフとフォーク
夕餉(ゆうげ)のしめは、あわれな― ―」
* * * * *
「こんなの暗唱してもらってどうしろってゆーの?」とにせウミガメが口をはさみます。「とちゅうで説明してくれなきゃ! ぼくがこれまで聞いた中で、一番わけわからんしろものだわ!」
「うん、そのくらいにしとこうね」とグリフォンが言って、アリスはよろこんでそれにしたがいました。
グリフォンがつづけます。「ロブスターのカドリーユおどりを、べつのやりかたでやろうか? それともにせウミガメに歌をうたってほしい?」
「ああ、歌がいいです、おねがい、にせウミガメさんさえよろしければ」アリスのへんじがあまりに熱心だったので、グリフォンはちょっと気を悪くしたようです。「ふん、まあいろんなしゅみの人がいるからね! おいだんな、この子に『ウミガメスープ』をうたってやってくんない?」
にせウミガメはふかいためいきをつくと、ときどきすすり泣きでつっかえる声で、こんな歌をうたいだしました:
* * * * *
「みごとなスープ、みどりのどろどろ
あつあつおなべでまっている!
だれでものりだすすてきな美食!
ゆうべのスープ、みごとなスープ
ゆうべのスープ、みごとなスープ
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!
みごとなみごとなスープ!」
「みごとなスープ!
さかなもおにくもサラダもいらぬ!
二ペンスほどのみごとなスープ
でだれもがすべてをなげだしましょう!
みごとなスープが一ペンス!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!
みごとなみぃごとなスゥゥゥゥプ!」
* * * * *
「さあ、サビをもう一度!」とグリフォンがさけんで、にせウミガメがちょうどそれをくりかえしはじめたとき、遠くのほうで「裁判がはじまるぞ!」とさけびがきこえました。
「おいで!」とグリフォンは、アリスの手をひいて、歌の終わりをまたないで、かけだしました。
「なんの裁判なの?」アリスはきれぎれの息でききました。でもグリフォンは「おいで!」と言うだけでもっとはやく走りだして、にせウミガメのかなしそうな声は、背中からのそよ風にのって、ますますかすかにきこえてくるだけとなりました:― ―
「ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ
みごとなみごとなスープ!」
11. タルトをぬすんだのはだれ?
ハートの王さまと女王さまは、ついたときには玉座にすわっていました。そのまわりには、大群衆が集まっています― ―いろんな小さな鳥や動物、さらにはトランプひとそろい。ジャックが王さまたちの前でくさりにつながれていて、その両側に兵隊さんがついています。そして王さまの近くには、白うさぎがいて、片手にラッパ、片手に羊皮紙(ようひし)のまきものをもっています。法廷のまん中にはテーブルがあって、タルトののったおっきなお皿がありました。すごくおいしそうだったので、アリスは見ているだけでおなかがすいてきました― ―「はやいとこ裁判をすませて、おやつをくばってくれないかな!」でもこれはありそうになかったので、ひまつぶしにアリスはまわりのものをなにもかも見ていきました。
裁判所にくるのははじめてでしたが、本でよんだことはあったので、ほとんどなんでも名前がわかってアリスはとてもとくいでした。「あれが判事ね、おっきなかつらをかぶってるもの」